このインタビューは2013年参院選直後、若者に選挙について訊くために行ったものの一部である。しかし、インタビューの内容は選挙にとどまらず、国内で生まれている新しい社会システムを匂わす話にまで及んだ。その内容は村上龍先生の「希望の国のエクソダス」を彷彿とさせた。
 今回は特別にインタビュー内容を書き起こし、対談形式で進めていく。

インタビュアー:宮窪かずき(以下筆者)
解答者:二十代後半、福祉関係の仕事をしている男性(本人の希望により本名は伏せる。尚、以下A

筆者 あなたが初めて投票に行ったのは何歳の時ですか?

A 二十歳の時です。

筆者 今回の参院選の投票には行かれましたか?

A 行ってないです。

筆者 理由をお伺いしてもいいです?

A 多数決という民主主義で闘う限り少数派に勝利はあるのか疑問に思ってるからです。今の日本の選挙は多数派の世界を作るという感じ。圧倒的少数派の意見は消されてしまいます。

筆者 今回の参院選で気になる政党はありましたか?

A 応援してる、してないに関わらず?

筆者 そう。

A 公明党と維新の会ですね。やっぱり目立ちますから。

筆者 今回の参院選の争点はどこだったと思いますか?

A ほとんど全て。総合的に。

筆者 自分がもし今回の参院選に出ていたとしたら、どこの党で立候補しましたか?(複数回答可)

A 無所属ですよ(笑)。

筆者 Aさんは農業もしていますよね? TPPに関してはどのようにお考えでしょう?

A TPPっていうのはどっちみち来るものですよ。選挙だからどうとは思ってません。反対したからといって遠ざけられるものでもないです。ただTPPっていうのは農協的市場ですよね。TPPに参加すればより大きな資本主義にマッチした資本主義だけが儲かる気がします。これは止められない社会の変化ですが、これだけでは日本は世界を相手に闘えません。農協主体の農家は今後七から八割が潰れるでしょう。そうすると鍵になるのが、個人が行う農業です。農協主体と個人では市場のベースが異なります。個人の方は地域に根ざす農業だと思います。

筆者 地域に根ざすとはどういうことでしょう?

A 自給自足がベースということです。道の駅やコミュニティスペースで野菜を販売するのも地域に根ざす活動だと思ってます。

筆者 以前緑の党関係者からも似たような話を伺いました。緑の党は応援しなかったんですか?

A 僕の周りに応援している人はいますよ。でも緑の党の人たちはとても感情的ですよね。原発や放射能の話にしても深い所を突くと非科学的な解答をしてきます。それで政治に通用するのかというのは疑問ですよ。おそらく理系の人間なら彼らの説明が不足していることはわかってると思います。

筆者 山本太郎はどうおもいます?

A 政治的に通用するのか疑問ですね。政治家向きではない。維新の会の橋下さんの方が戦略もしっかりしているので通用するでしょう。

筆者 話を戻しますが、個人が行う農業に興味を持っている人は周りに多いですか?

A そういう農業は自然農業と呼ばれてるのですが、僕の周りにいる二十七歳から三十歳の人に多いです。ちなみに彼らは緑の党の三宅さんを応援してるみたいですよ。

筆者 応援してる人はいわゆる文系の人ですか?

A 科学的な人も非科学的な人もですよ(笑)。

筆者 なるほど。農協的市場から脱して自然農業に向かうというのはAさんが多数派を決める世界から離れて行くのに似ている気がしますね。

A ご存知とは思いますが、今シェアハウスがどんどん増えています。過疎化した村に若者が住み始めて独自の自治を形成しているところもあります。これは政治の外で闘うことになると思ってます。選挙や政治というのは必然的な世の中の流れです。私たち少数派の人間は世の中の流れに作用されない力をつけることが必要なんです。自治やシェアハウスというのは資本主義のがん細胞なんです。

筆者 がん細胞ですか。資本主義に対抗する勢力と聞くと私は共産主義を連想しますが。

A 共産主義と資本主義のがん細胞はノットイコールですよ。がん細胞と言うと誤解を生むかもしれませんが、これはスティーブ・ジョブズのようなことを示してます。若いころのジョブズのアイディアは当時のパソコン業界の中ではマイナーな考えでした。それがメインストリームに変わって、今のアップルがあるんです。アメリカでは資本主義のがん細胞がメインストリームに変わる例はたくさんあります。だから珍しいことではないんです。それが今後の日本で通じるかが不安ですけど。

筆者 zineや市民メディアも世の中の流れに左右されない力だと思うんですよ。農家にかかわらずそういう考えに賛同してる人っていますか?

A 結構多いですよ。周りを見ると十年くらい前から考えている人はいるっぽいですね。不景気っていう言葉が今の若者の身にしみ始めた頃だと思いますよ。十年前っていうのは。

筆者 なるほど。Aさんは私よりも年上で、会社でいえば後輩育成をしてる年頃だと思うんですよ。自分より年下の若者がこれから私らでは思いつかなかったような社会システムを作ると思うんですけど、先輩としてどう接するつもりですか?

A 僕が大きな組織や世の中の流れに乗れる人間ではないので。小さなコミュニティを作り、世界と闘っていく若者を支援したいです。